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 僕の友人は、少し変わっている。否、そんな生やさしい言葉で言い表せない程に狂っている、と言った方が正しい。 「うずら、のろちゃん、ご飯だよー」  社会人も二年目、少しだけお金も心も余裕ができてくる頃合い。大学院卒の人間ともなると二十代も後半になり結婚や子供の言葉が親の頭の中から消えなくなる頃合い。  帰省の度にさり気なく、しかし執拗に探られるいもしない結婚相手の話題に嫌気がさして、適当に入った出会い系のような飲食店で、僕は彼女と出会った。  化粧はナチュラル、セミロングの髪は特に手を入れていないのか痛みのない艶やかな黒色をひとまとめ、張り切っているわけでもないがさり気なくお洒落な服、シンプルに言うと非常に好みの女の子だった彼女とは仕事の話がきっかけで盛り上がり、その日のうちに見事連絡先交換までこじつけた。 「うにちゃんは昨日とっておきのマウスあげたでしょ、次のご飯は明後日~」  それから何度か外でのデートをした末の告白に、彼女は僕を信用してくれたのか少し眉を下げて申し訳なさそうにへらりと笑って言ったのだ。  私爬虫類が好きなんです、と。 「(だから今は僕と恋愛できる気はしない……か)」  とんだ核爆弾を打ち込まれたような衝撃的なフラれ方をしてしまったが、元々一緒にいること自体は嫌ではなかったようで、その後もなんとか友人関係を保つことはできている。  友人の枠に落ちついた数日後、彼女に家に招かれた。もちろん彼女のペットたちに耐性があるか写真を送られていたので実際に実物を見ても卒倒してしまうほどの衝撃はなかったが、なんというべきか。  すさまじかったのだ。数が。 「デュビア減ってきたな……やっぱり追加二百じゃ繁殖厳しいかな~」 「あっごめんそれだけは近づけないで」  ヘビ、トカゲ、カメ、カエルにカメレオン、それらをさらに種類分けしていくと彼女が所有しているケースは既に両手両足の指を全部足しても足りない。 「ちゃんと見れば可愛く見えてくるよ、ほらほら」 「だってそれゴキブリじゃん!」 「レッドローチよりましだよ、コオロギみたいに臭いわけでもないし」 「都会育ちにそのレベルを要求しないで……」
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