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 生まれも育ちも東京であまり野生の生き物と触れあうという事がなかった僕とは違い、彼女は大学に進学するまで山も海も川もある大自然の中で育ってきたので、そういう生き物たちと触れあうことが多かったそうだ。  初めての一人暮らし、どんなにストレスがたまっても家のことは自分でしなければならない、愚痴を聞いてくれる家族は側にいない、かといって癒しになるような趣味があったわけではなかった彼女は、悩みに悩んだ末ペットを飼うという方法でそのストレスとさよならする事に決めたらしい。実家には犬と猫がいるそうだ。 「ねえ、一つ聞いてもいい?」 「? どうぞ」 「なんで、爬虫類だったの?」  僕の問いに彼女は視線を右から左へとうろつかせ、手に乗せていたヒョウモントカゲモドキ(愛好者はレオパードゲッコーという英名を省略してレオパと呼んでいるらしい)のうずらをそっと撫でながら思い出すようにゆっくりと口を開いた。 「私だって最初は、哺乳類が飼いたかったんだよ」 「……そうなの?」 「でもうちのマンション、うるさいペットは禁止だったの。だから小動物にしようと思ったんだけど、日中家空けるのに温度管理とかすごく大変そうで、ネットで飼いやすいペットを調べたら、レオパみたいな爬虫類にいきついたの」  普段は前足を突っ張って立っているはずのうずらは、今は彼女の手のひらが暖かく心地よいのかぺたりと伏せてじっとしている。 「最初は懐かない生き物飼ってて楽しいのかな、って不安だったんだけど、ペットショップで見つけたうずらと目があって一目惚れしちゃって、瞬間で決めちゃったの。この子くださいって」  へにゃ、とうずらに笑いかける彼女に危うくこちらの心臓が跳ねそうになる。曲がりなりにも好きになった女性だ、あんなに幸せそうな顔をされて何も思わないわけではない。
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