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目が覚めると、翔の眼前には見慣れた天井があった。
「夢か…。」
不思議な夢だった。
まるで、亡くなった祖父が翔に最期の挨拶をしにきたかのような…
「あ…、そっか、じいちゃん、死んだんだっけ」
思い出し、現実に帰り、気分がどっと暗くなる。
このままベッドにいたくない、と翔はふと感じ、ベッドから離れ、顔を洗い、食卓へ向かった。
食卓には母と妹の悠里がいた。
「おはよう、翔。ご飯できてるよ。」
「あ…おはよう」
母の何気ない挨拶も、何かいつもと違うように感じた。
いや。いつもと違う。やはり何か、少し暗い雰囲気が今日の母の中にはある。
当たり前か。じいちゃんが死んだ次の日だもんな。
翔は椅子に座り両手を合わせてから、皿に乗ってある塩気の効いたソーセージと目玉焼きをゆっくり頬張った。
「うん…おいしい。」
廊下からこちらへ向かってくる足音が聞こえてくる。
開かれた戸から現れたのは、スーツ姿をした父だった。
「翔、食事を済ませたら隣の部屋に来なさい。あ、そうだ、おまえもスーツを着なくちゃいかんな。」
「お父さん、翔はスーツなんて持ってませんよ。中学用に買ってある制服でいいんじゃない?」
「ああ、そうだな、じゃあそれを着て隣の部屋に来なさい。あと、おまえも、朝食の支度が済んだら着替えて、すぐ来るように。」
「わかってるわよ。すぐ着替えて向かいますんで。」
父と母の会話を聞きながら、味噌汁をすする。
まさか、こんな形で新しい制服を着るなんてな。
ふと思いながら、翔は塩気の効いた朝食をかきこみ、両手で手を合わせた。
「ごちそうさまでした。」
(あれ、夢でじいちゃんとどんな話してたっけな。)
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