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「あら、おかえりなさい。今日もちゃんとお勉強できた?」
エプロン姿の母が塾から帰ってきた翔を出迎える。その奥からはおいしそうな夕飯の匂いが立ち込め、空腹である翔の食欲を誘う。
翔は靴を脱ぎ、手を洗い、急ぐようにバタバタと食卓へ向かう。
食卓には父と母、今年から小学4年生になる妹の悠里(ゆうり)が揃っていた。
翔の家は、祖父母と父、母、翔と妹の悠里との6人家族で暮らしている。夕飯はこの6人全員がいる場合、揃って食べるのがこの家でのルールとなっている。
しかし、この食卓には今、祖父と祖母の姿が無い。
「あれ、じいちゃんとばあちゃんは?」
翔が母に聞く。
「そうね、隣の部屋にいるんじゃ無いかしら?翔、ちょっと呼んできてくれない?ごはんだよーって」
隣の部屋とはいえ、翔の住んでいるこの家には、それなりに立派な日本庭園じみた中庭があり、今いる食卓から中庭を挟むようにある部屋が祖父母の部屋だ。ここでいう「隣の部屋」のことではあるが、中庭があるために、「隣の部屋」感は全く無い。
食卓から隣の部屋に行くまでは長く細い廊下を渡る。必然的に、この廊下も中庭に接していることになるが、廊下からは中庭がよく見えない作りになっている為、本当にただの長い廊下である。
腹が減った。はやくご飯を食べたい。
その欲求を満たしたいが為、翔はその長い廊下を駆け足で進み、
祖父母を呼ぶ為に部屋の襖を思い切りよく開けた。
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