遺言書

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「何人だ?」 「森を攻め落とした人数と同じく4人です。なんでかこの人数のクソ勇者一行が多いんですよね」 ただの4人で攻め落とされるような作りにはしていない。 きっと自分を殺すことを想定にされた少数精鋭の形なのだろう。 「大人数で攻め込んでくればいいものを、舐めてますよね」 その部下は憎たらしげに顔を知らない連中を罵る。いや、そんな言い方は可愛すぎて不適切だ。向こうがこちらに無自覚な殺意を抱いているように、こちら側も無自覚ながらも止めようのない殺意を抱いている。 殺し、殺され、滅ぼし、滅びる。 それでいい。 そうなるように全て一から創った。 望み通りだ。 「何人出来たって魔王様は倒せないのに」 部下は自慢げに、誇らしげに、そう言った。 そう言わせるのも思い通り。 仲間の思いを裏切るのも予定通り。 計画通りに事を進めるために、沢山の悪事を働いてきた。 非道なことをして、外道なことを進んで行い、ヒトの道を外れ――ヒトをやめた。 セカイは思った以上に単純だった。 自分1人を悪人になるように立ち回れば、セカイはあっという間に自分を「悪」と認識した。そしてヒトはその「悪」にだけ敵対心を抱いた。 ヒト同士で争っていた時代と比べれば、ずっと、うんと、平和だ。 ヒトの数だけありえた「悪」が、1つに収まったのだから。 「悪」に立ち向かえ。 誰もそんなことを命じてはいない。 「悪」は滅びるべきだ。 そんな先入観とも呼べる常識が働いただけのこと。 そして、「悪」を倒す。 それでいいのだ。 それで、いいのか。 自分の死を想定した遠い昔のあの日から、今も尚抱いている疑念。 これが解けなければ死にきれない――そう思いながら自分は死んでいくのだ。 ヒトとかけ離れた巨躯。 おぞましさを造形したような自身の姿は非常に醜い。 別の部屋にある鏡に自分を映す度に強くそう感じる。 自分でこの姿を望んだ。 こうしなければ、ヒトは「悪」だと認識しない。 情に働きかけるような生ぬるい姿ではいけない。 刃物を突き立てても、罪の念に駆られない姿はこれが適していたのだ。
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