遺言書

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自分が、自軍が滅びた後、セカイはどうなるのだろう。 窓際に立ち、ヒトをやめた視力で遠くの島の景色を望む。 野生の魔物に魔の効力を持つ植物。 緑の茂った豊かなあの場所も、また戦火で燃え果てるのだろうか。 ヒト同士が争うセカイに戻れば、あり得ない話ではない。 自分が滅びた後のセカイなら、あり得る話だ。 そう思う度に、死んではやれないと強く思う。 強くあらねばならない。その決意は鎖に近い。 面倒なのはそれを実現することではなく、ヒトに夢をしっかりと見せること。 簡単には成し遂げられないが、決して遠い未来の話ではないのだと常に思わせること。 そのために、自分の部下は強さを明確に振り分けた。 1つの段階を乗り越えれば、次の段階。 ヒトに達成感を見せた後には、きっちりと次の段階を。 今のままでは倒せない。けれど倒せない強さではない――この加減は面倒だ。 全く、ヒトとはなんて面倒くさい。 強さを与えてやることも可能だが、連中に強さを与えると次は怠惰を覚えるのだ。 怠惰を蔓延らせれば安寧を維持できるかと思ったこともあったが、それは却下だ。当然の如く没だ。 それをヒトと呼んでいいものか。 ヒトとして産まれたので、そこらへんはしっかりと分かっているつもりだ。 ちゃんとそういうことも考えて、セカイを塗り替えたつもりだ。 首尾良く。 バランス良く。 いやはや。 ここまでしたのだから感謝してもらえないだろうか。 尤も、自分に無自覚な殺意を抱いている危ない存在に礼を言われても嬉しくはないが。
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