:王子の過去:

3/16
前へ
/161ページ
次へ
「わたくしと、ヒーリアさまで行います。ヴェロニカさまとノア王子は、お隣の掃除用具入れで大人しくしていてくださいませ!」 「よいか、わらわが良いと言うまで、そこから出てはならぬぞ! 受験生の迷惑である」  こうしてヴェロニカとノア王子は掃除用具入れに隔離され、受験生はやっとまともな試験を受けることができたのである。    「……で、王子。あのフィリップは何者なの? 顔見知りなんでしょう?」  珍しいことに、王子がふいっ、と目線を逸らした。これは怪しい、とヴェロニカの眼が輝いた。 「王子、こちらを見てください」  さらにノア王子は顔ごと視線を逸らせた。だがそれを逃すヴェロニカではない。嬉しそうな顔で王子の耳を力の限り引っ張った。 「痛い、痛いではないか! 野蛮な女、俺の傍に寄るな!」  じりっと王子が後ずされば、ヴェロニカがずいずいっ、と前進する。それを何度か繰り返すと、背中にモップや箒や雑巾が当たった。 「くっ……」 「さあ王子、答えてください」  床に座り込んだ王子を逃がさないように立ちふさがり、あろうことか壁を愛用の棍で ドン! と叩いた。 「ひっ……凶暴な女は好みではない……」  何とでも仰い、と笑ったヴェロニカはそのまま自身も屈みこみ、王子の耳元でささやいた。 「あの男は何者だ? 答えろ」  王子の顔色が悪くなった。     
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加