:王子の過去:

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「好みではない女に詰め寄られると……恐ろしいな……」  再び、壁がドンと鳴る。ようやく観念したのか、王子が早口で答えた。 「……あれは……だ……」 「え、なに? 良く聞こえない……」  実弟だ、とノア王子が叫んだ。  ぱちぱち、とヴェロニカが瞬きをして棍を下ろした。 「待って、あの人、元・王子さまなの!? 王子が海賊になっちゃったの!?」 「王女、そこまで驚くことはないぞ。不幸な成り行きとはいえマイクだって元は一国の皇太子だ。最早、何番目かもわからぬ王子が海賊になったとて、不思議はない」 「いやいや! 問題あるでしょう!」  この世では、王子が海賊になるのが流行なのだろうか。いやそんなまさか、と眉間に皺を寄せるヴェロニカを見て力なく笑った王子が、さらなる衝撃発言をした。 「やはり王女は世間知らずであるな。よし、このノア王子が世間をおしえてさしあげようではないか!」  珍しくヴェロニカが、こくこく、と頷いて床に行儀よく座った。 「俺には姉上も弟も沢山いるが、深く愛し合って夜ごと楽しめるほどに仲が良かったのは、クラーラ姉上とフィリップくらいなのだ」 「は……?」 「なのに姉上は山賊になり、弟は海賊になってしまった」 「はい……?」     
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