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「あんなにも深く激しく愛した俺を裏切ったのだ。最愛の二人に裏切られた俺の心はズタズタだ。もう誰も愛せない――。そう思っていた時に、俺は運命の人に出会った。それが、コロンだ。しかし運命はまた悪戯をする。そのコロンにはセレスティナという美しく賢い妃がいた。しかもセレスティナの傍には……騎士としてフィリップがいた。俺に見せたことのない忠誠と慈愛に満ちた眼差し……」
衝撃的すぎて思考回路が止まってしまったヴェロニカを置き去りにして、王子の過去話は延々と続く。
「フィリップは、我が母上の遺品を盗んで王宮を飛び出した不届き者だ。だが、最愛の弟だからね、どこでどうしているのかと思って調べていた。どうやら各国の王宮を転々として王侯貴族の寵愛をうけて自身に金品を貢がせたり、宝物庫からお宝をかすめ盗ったり、王族のキャバンや船団を襲っていることがわかった。もう……立派な賊だ。兄とも弟とも思わないことにしたのだよ。しかしせめて、母上の遺品を返してほしい。至急返せと迫っているのだが、応じてくれなくてね……。俺はもう弟を許すことができないんだ……未熟だと笑いたければ笑えばいいさ……」
真っ白になったヴェロニカの耳にはマイクの楽しそうな笑い声が届き、目の前の王子は絶望に彩られている。
(あーん、父さま、フィオ、母さま……わたし、わけが分かりません……)
世の中って複雑なのね、とヴェロニカは深い溜息を洩らした。
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