:王子の過去:

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「我が国の王子が隣の掃除用具入れで呆けておるゆえ、静かで良いな」 「あ、みなさま、グラスが空ですわね。わたくし、お代わりをいれてまいりますわね」  パタパタと駆けだしたビアンカの足は、しかしすぐに止まってしまった。  学校づくりが進んだのは喜ばしい。だが。 (ヴェロニカさまとマイク、うまくいっていると良いけれど……) ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  マイクは、校舎建設予定地まで来ていた。 (ここに、学校が出来るのか……。ノア王子の指導で……)  ただの変態かと思っていたが、思いのほか有能な王子だった。 (ヴェロニカが嫁に行くなら、俺もお付武官として一緒に行きたいな……)  マイクに追いついたヴェロニカは、見慣れているはずのマイクの背中に声を掛けられなくて、困っていた。  落ち込んだような、拒絶するような背中は、見たことがない。 (こないだ借りた小説に似た場面があったような。あの時、主人公はどうしてたっけ……)  確か、背後から突然抱き着いて、相手の胸を弄っていた。  しかし主人公は男で、夕日の当たる校舎立っていたのは貴族のご令嬢だった気もする。 (よしっ、頑張れ、わたし!)  小さく拳を握ったヴェロニカは、勢いよくマイクに駆け寄った。 「あの……マイク……」     
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