:王子の過去:

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 物腰は柔らかく、上品で威厳がある 「……しかし、どうも気にかかる。どこかで会っていると思うのだ」 「奇遇じゃな、わらわも、それが気になっていた」 「陛下とヒーリアさま共通のお知り合いってことは、どこか王侯貴族の方かしら?」 「しかしビアンカさま……それにしてはちと、地味すぎるというか、普通すぎますぞ……?」  グーレースの言葉に、やはり異議は出ない。  王侯貴族でここまで普通なら、かえって記憶に残っているに違いない。だが、こんな普通の御老人は誰の記憶にもない。 「貴殿はどこのどなたなのだ……?」 「隠居の王様っていったら、たいていこんな風に、お髭があったり王冠がのっていたり……」  羽ペンでビアンカが、カリカリと落書きをした。  それを見たヒーリアとコロン十三世が同時に声をあげた。 「あーっ!」 「こっ、これは!」 「え、え、? どうなさったの?」 「ビアンカ、お手柄だ! この凡庸で貧相な御老人……いやいや、この御老人はアシェール国の現国王陛下であらせられる!」
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