:怪しい男:

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 ノア王子の指導のもと、さっそく「採用試験」が始まったのだが……。個性の強すぎる『このメンバー』で一筋縄でいくはずがなかった。 「次の人、どうぞっ! 入って!」 「王女、これから手合せするわけじゃないんだ、落ち着いて……」  立ったり座ったり身を乗り出したり、落ち着きが皆無のヴェロニカのドレスを、ノア王子が必死で掴んでいた。  先生募集の張り紙を町にはって一週間後、『この国の歴史』部門の「採用試験」が始まった。  だが、受付にいるヴェロニカの鼻息が異常に荒いため、応募した人達の数名は逃げ帰ってしまう。なにせ王女ヴェロニカは武勇に優れたお転婆王女なのだ。目をキラキラさせたヴェロニカを見たら怖気づくのも無理はない。 「誰だ、こんな野蛮な女を受け付けに連れてきたのは! こういうのは穏やかな美女や物腰の柔らかい美青年を置くと相場が決まっている。だが生憎そんな人材を選んでいる暇はない。……そうだ、俺が手本を見せてやればいいのか、うわっはっは!」  ノア王子は「物腰の柔らかい美青年」とは言い難いうえに、リーカ国の人ではない。――のだが、「歴戦の女将軍」が身を乗り出して手ぐすね引いて待ち構えているよりは、遥かにマシらしい。  おっかなびっくりの人たちが、試験会場へと入って行く。  引き続き試験官も、ノア王子とヴェロニカが担当しているのだが、この二人が一緒の空間に長くいて何も事件が起こらないわけがない。 「おおお。みろ、王女! あの男など食べごろだぞ」  けっ、とヴェロニカが吐き捨てた。 「あんなひ弱そうな男――どこがいいんだか。剣一つ、鉄アレイ一つ、握れなさそうですよ」 「やれやれ……男の良さがわからないこんな野蛮な女のどこが良いのかねぇ、マイクは……」 「マイクは今、関係ないでしょう!」 「コロンは王としては申し分なく、テオフィオ殿下の育て方も問題ない。なのに、娘の育て方を間違えたな」 「なぜここで、父の話題が出るのか理解に苦しむ!」 「おや? 俺は常に、愛するコロンとマイクのことを考えている。君はそうではないのかな? 彼らは外見も美しいが、きっと裸に剥いてベッドに連れ込んだらさぞ素晴らしいだろう。そう妄想するのは当たり前のことだ」  カーッとヴェロニカの顔が赤くなった。
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