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「あそこ! 匠、ほらバッティングセンター」 「バッティングセンター」  いきなり呼び捨てにされた僕は、何の抑揚も無く、ただ夏の言葉を繰り返す。  確かにバッティングセンターだ。  だけどこの緊急事態にバッティングセンターって……。 「金属バットよ! 金属バット! 対ゾンビ戦では最強の武器でしょ! 決まってんじゃん!」 「金属バット」  繰り返す僕に嬉々としてバットとヘルメットを渡して、夏は自分でもヘルメットをかぶった。  フレアのミニスカ、時期としてはまだちょっと暑そうなスカジャン、厚底のスニーカーにポニーテール。そこにくすんだ藍色のヘルメット。  ポニテのせいでヘルメットは少し浮いていたし、全体のコーディネートとして言いたいことは沢山あったが、本人が満足気だったから、僕は黙っていた。 「ゾンビはだいたい脳を狙ってくるから、ヘルメットは必須!」 「脳を」  なんでこんなに楽しそうなんだ?  不思議なほどテンションの上がっている夏の顔を見て、僕もとりあえずヘルメットをかぶる。  ちょっとキツ目のヘルメットを夏が両手で押し込んでくれた。 「行くよ! とりあえずこの建物の中のゾンビを掃討して、居場所を確保!」 「金属バットで?」 「あったりまえじゃん! 最強装備よ!」  僕はこの強引で(外見は)可愛い女子高生に背中を押され、鹿翅島で唯一の総合アミューズメント施設内のゾンビを掃討すると言う任務に就いたのだった。
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