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夏曰く、ゾンビの視力は皆無に等しい。
夏曰く、ゾンビは音に反応する。
夏曰く、ゾンビは頭をつぶせば動かなくなる。
夏曰く、ゾンビに噛まれたものはゾンビになる。
夏曰く……夏曰く……。
彼女のゾンビに対する知識は(意外にも)完ぺきだった。
映画のゾンビほど動きは遅くなかったが、彼女の指示通り、音をたてないように静かに移動して、一撃で頭を砕く。
そんな作戦は功を奏し、僕は何人もの人間をゾンビから救うことができた。
正義の味方だ。これだ、これこそ僕のなりたかったもの。
「匠! 急ぎすぎ! それじゃあ『いい気になって突っ走って殺られるモブ』じゃん!」
「だって! ほら、また違う人が襲われてる! 助けなきゃ!」
息が切れていたけど、僕はもう止まれない。
数か月とは言え体は鍛えてきた。僕は思ったよりゾンビと戦える。
小さな女の子を抱えてうずくまった女性に襲い掛かろうとしているゾンビの後頭部へ、僕は助走をつけて金属バットをフルスイングした。
ばしゃんと頭がはじけ、ゾンビが倒れる。
後ろから走って追いついた夏が、階段の防火扉を閉め、カギを掛けた。
「……これでたぶん、2階から上は確保できたんじゃないかな」
女性に手を貸して起き上がらせた僕は、荒い息を吐きながら頷く。
夏は女性と女の子を安心させるようににっこりと微笑むと、屋上へ向かう非常階段を指差した。
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