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「これでしばらくは大丈夫。屋上で自衛隊のヘリを待つよ」 「自衛隊? 助けが来るんですか?!」  もっともな質問だ。  ここまで夏の言う事はほぼ全部正解だったとはいえ、こんな状況を自衛隊も国も想定している訳がない。  絶対に救助が来るとは言い切れないし、来るとしても時間がかかるかもしれない。  僕も夏もまったく確証は持っていないのだが、なぜか彼女は自信満々で親指を立てた。 「大丈夫! 日本の自衛隊を信じなよ!」  ……自衛隊を半年も経たずに辞めた身としては心が痛い。  いや、僕みたいなのが我慢しきれないほど過酷な訓練をやっているのだ、だからこそ自衛隊は信頼できる。  逆説だけど、僕が証拠だ。 「来ますよ。大丈夫です」  それに、ここで不安を煽っても何の役にも立たない。  僕は夏にならって、なるべく安心させるような笑顔でそう言って笑った。  たぶんこの建物の中で最後の生存者である僕たちは、今まで救助した人たちと同じように非常階段を登る。  女性の肩越しにこっちを見ていた女の子が、突然「あっ」と大きな声を上げたのはその時だった。  ゾンビの生き残りが居たか?!  僕は咄嗟に金属バットを構えて後ろを振り返る。  しかし、そこに居たのはゾンビではなく、1匹の小型犬だった。 「ココアちゃん!」  女の子の声に、その犬は「キャン!」と答えたが、金属バットを構える僕を見て走り去る。  手を伸ばして追いかけようとした女の子をしっかり抱きかかえて、女性は「ダメよ! 今はココアを探しに行く時間は無いの!」と一生懸命なだめていた。 「キミの犬?」 「うん! ココアちゃん、1人だと寂しくて泣いちゃうの!」  その会話を聞いて、先頭を歩いていた夏が慌てて振り返った。 「匠! ダメだよ!」  今回も彼女はたぶん正しい。  でも僕は……正義の味方は小さい女の子のお願いを聞かない訳には行かないし、子犬の命も放っておけない。  僕は女の子と夏に向かって親指を立てると、その場で歩みを止めた。 「先に行ってて。僕もすぐにココアを連れて屋上に行くから」  夏の返事は分かっている。  でも僕はその声を聞かずに、今来た道を一気に駆け戻った。
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