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「おっさん以外におっさん居ないじゃん」
「……こう見えてもまだ19歳なんだけど……」
僕は高卒で自衛隊に入り、訓練とか集団生活とかが辛すぎて半年ももたずに辞めた。
実家に舞い戻り、でも、家にも居づらくてネットカフェに入り浸っている。
確かに一か月くらい剃ってない無精ひげや、3か月くらい切ってない伸び放題の髪は見苦しいかもしれないが、ハゲでもデブでもない20歳前の青年を捕まえて「おっさん」はないだろうと、僕は憤りを覚えた。
「ウッソ?! 19? マジで? ウケる! いっこ差じゃん」
ぎゃははとでも笑いそうな勢いで、女の子は笑う。その声は、静かなネットカフェの中でうるさいほどに響いた。
ギャルか、ヤンキーか、とにかくこんな時間にネットカフェに居るような女の子にはかかわらない方が良いだろう。
僕は女の子を無視してヘッドホンを付け直すと、ライヴカメラの映像へと視線を戻した。
ベンチの周囲には血だまりが出来ていたが、おっさんもホームレスももう居ない。
僕は次々に別のライヴカメラへと接続を変え、ホームレスを探した。
「シカトしてんじゃねーよ」
ヘッドホンをはぎ取られ、さらにいきなり髪の毛を掴まれて、僕は首をがくんと後ろに引っ張られた。
え? うそ? 本当にこんなことする人いるの? なにこれ怖い。
「ゾンビ映画好きなんだよ。でも今のは見た事ねーから教えろって言ってんの」
「ゾ……ゾンビ……?」
「どう見てもゾンビじゃん。人間食ってるし、感染してるし。ゾンビ映画100本見たあたしが言うんだから間違いないって」
……確かに。言われてみればその通りだ。
でもこれは映画じゃない。
僕が、これはライヴカメラの映像だと告げると、女の子はちょっとかわいそうな人を見るような眼で僕を見た。
「はいはい。ピチピチJKとお近づきになりたいのは分かるけど、そう言うの面白くねーから」
「いや、別にお近づきには……」
この会話中も、彼女は僕の髪の毛をずっと掴んでいる。
いつまでも掴まれっぱなしと言うのは痛さ以上になんとなく屈辱感がひどいので、その手を放してもらおうと思い、僕は彼女の手首を掴んだ。
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