ツマ

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携帯ぽちぽちしながらデザート、フルーツポンチの白玉にフォークを突きさす。口に運ぶ途中。 「あらお行儀が悪いこと」 横から幼い子供を諫めるような声がした。 顔をむけると食堂から調理場に入る扉の前。恰幅のいい寮母が細かい花柄エプロンの腰に手をあてて立っていた。「自分の息子だったらげんこつしてるわね」あきれた口調で言い肩を竦めた。 南はもにゅもにゅした弾力のある白玉をゆっくり咀嚼しのみ込んだ。親指でシロップのついた唇をぬぐう。麦茶をコップに注ぎながら、「けど人様の子だからね」と。したり顔でぞんざいな口の利き方をした。 寮母が「まぁ!」とわざとらしく驚いて片方の眉だけくっとあげた。口の端もきゅっと上がっていて皮肉な笑みを浮かべている。 日々クソガキ共の相手をしている寮母には南の憎たらしい嫌味なんか通用しない。ほどよく適当に反応され、流されてほっとかれる。実家を出てここで暮らし早4年になる。居心地がよくて今では本当の家みたいな感覚だ。 だけど、本来22時までに食堂にこなければありつけないルールの夕飯にサランラップがかかりとってあるのを見る度。嬉しいけど、同時に申しわけない気持ちが沸き起こる。 それがひとつだけ本当の家とちがうところだった。 「食べたら皿洗っておく。あとこれ凄いおいしかった」 皿を指して伝えると、「まぁうれしい」と頬に手をあてる。「じゃお願いね」そう言うとエプロンを外しながら暖簾の向こうへ行ってしまった。 入れ違いにレインディアの建屋で隣の班だった同期の高橋が入ってくる。 「つーまー。お前まぁだ食ってんの?」 短パンにTシャツ。肩にタオルをかけ、風呂から出たばかりみたいだ。こっちに歩いてきて向かいの椅子をがっとひき座る。タオルで適当に擦っただけなんだろう。まだ髪が濡れている。
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