電話

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仕事を終え、建屋の四隅に班ごとに取り付けられた簡易事務所のロッカーで着替えを済ませる。 パタンと閉め、「三年間お世話になりました」とこの場にいる班の最高責任者に声をかけた。 四十半の男が「おお」と椅子を反転させ「来週からお前も女王の奴隷か」と面白がるように歯を見せた。 「女王?…奴隷?…何それ」 南は首を傾げて疑問を浮かべた。 「ここ真田で一番きつい場所。スカイキャピトル333の組み立て現場のことだろ」 「またまたそんな大袈裟な」 「大袈裟なもんかよ。昼、新しい班長んとこ挨拶行ったんだろ。どうだったよ?」 「うー…ん。ーーあんまり歓迎されてる感じじゃなかったかも…」 「ま、そりゃそうだろうな。多部位のやつなんか向こうにとっちゃ仕組みから教えなきゃなんねー半人前のお荷物だ、はじめはしゃーねーよ」 がんばれや、と肩を叩かれ「はーい」と軽く返す。扉を開け外に出た。風が冷たい。 建屋を振り返り、じゃあね、と心の中で呟いた。 レインディアの、翼を持つ鹿がペイントされた工場建屋が頭部、胴体、主翼、尾翼の並びで軒を連ねる。その向こうはエリアが変わる。 スカイキャピトルの建屋は夜明けまで煌々とライトがついているから境界線かよくわかる。夜は特に。 夜みたいな深い紺色のつなぎを着た働き蟻達には、朝も夜もない。だから奴隷か…なるほどね。野球場みたいな白いライトの眩しさに南は目を細めた。 松永、という男を思い返す。全身に廃れた雰囲気を纏っていた。怠そうに煙を吐き出す横顔を見たとき、辛い労働を知っている顔だと思った。 抑揚のない、始終不機嫌な声で話す。声に色を付けるなら建屋の隅で土に汚れて残っていた雪みたいな灰色。 あの男の下でやっていくのかと思うと不安もあるけど、あの木はなかなか良かった。駐車場へむかい歩きながら白いちいさな花を咲かせていた梅の木を思いだし、頬が綻ぶ。 実家の庭に、柿の木と並んで生えている白い花のあとに紅い花を咲かせる梅の木に似てる。 ふと、鞄の中で携帯が震えているのに気づき、手袋を外し電話に出た。
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