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今日の朝礼後、松永が出て行ったあと、数人の班員が秋から使われる女王に使われる「キャット」という名前のついた新しいドリルの話をしていた。作ったのは松永の前に班長だった男、かなた。
かなたは女王用に作っていたキャットを突然S1用に設計変更しなおし、理由も言わず班を抜けたらしい。
でも沢はそれが腑に落ちないと言っていた。沢が言うにはかなたは出ていく少し前までよく「10年後も、20年後もずっとこのメンバーで羽を作っていたい」と話していたんだとか。S1に興味があるようにも見えなかったから不思議だったと首を捻っていた。
もしかしたら松永さんは何か知ってるのかもしれないけど、何も言わないから。俺らも何も聞かない。浅い溜息をついた顔はなんだか少し寂しそうだった。
かなたはどうして出て行ったんだろう。
「薄情」っていう言葉は踏み台にされた憤りなんだろうか。
S1の組み立てメンバーは真田の全班から精鋭が集められている。誰もが津葉みたいに待っているだけで声がかかるわけじゃない。自分も行きたいけど行けないっていう妬み?
なーんて安易考えかな。あの班の中で色んな人間の思いが複雑にからみあっている気がした。
コンビニで種がチョコになってるスイカのアイスを買い食べながら寮へ帰る道の途中。神社の前を通った時、入り口にある大きな木の幹をよじ登る蝉の幼虫を発見。すかさず携帯のカメラをむけた。
羽化スポットなのか幹の至る所に抜け殻がくっついている。背中にすっと割れ目が入り中身がない。
――かなたさんってどんな人だったの?
――かなた?えーとね。明るくて、からっとした性格で、中身がないただのバカ。
南の中でかなたは蝉だ。いろんな人間の気持ちにわだかまりを残したまま、中身はどこか遠くにいってしまって今はもう、ここにいない。
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