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鬼にみたいに吠えてる隣班の班長に今声をかければ噛みつかれるだろうと予想がついた。けど、新しい班の人間にちりとりひとつ取ってこられない役立たずとレッテルをはられる方が嫌で声をかけたら案の定罵声の矛先がこっちへむいた。
さっさと終わってちりとり持っていかなきゃ。早く終われ。
反省を装いながら願っていると突然、南のからだの前に誰かが割って入ってきた。
南をその背中の後ろでかばうように立ち「うちのがすいません!」、そう言って頭を下げた。松永の背中だった。
脳天を直撃されるという表現があるけど、この感覚がそうなんだろうか?南の足元がふらついた。突然、時間がとまり建屋のド真ん中で棒立ちになった。
自分でもばかみたいだと思いつつ、松永から目をそらすことができなかった。
ふたりになると松永は南に隣の班っていうのは二班じゃなくて四班を指すのだと教えた。主翼班が右羽と左羽で分けられているように、尾翼班は一、二班が水平尾翼、三、四班が垂直尾翼と分けられているって。
説明する松永の前でただぽかんと立ち尽くしている南に「お前聞いてんのかよ?」と眉をひそめた。困ったように頭をがしがし掻いてちいさなため息をひとつついた。
そしてやれやれという顔で「ただの八つ当たりだ。あとで恥ずかしくなるやつだ」だからさっさと気持ちを切り替えろって、ぶっきらぼうに言ったんだ。
怒鳴られてへこんでいると思われたのかもしれない。ただ鼓膜に録音された「うちの」が頭から離れなくてフリーズしてるだけなのに。
『南』と名前で呼ばれるより。『つま』と親しみを込めて愛称で呼ばれるより、もっと。ずっとずっと暖かい響きだった。
鳩尾の奥の方が泡立ったようにふつふつしだし、――ああ、俺こういう人間好きだな、と思ったんだ。
「うちの」
うれしかったな、それだけで。
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