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ひしゃげた封筒を開封すると未払いのまま忘れていた携帯料金の督促状と振込用紙が入っていた。記載された期限までに入金が確認できない場合通信を止めると書いてある。ズボンのポケットにねじ込んでコンビニへ支払いに行く。
店員が振り込み用紙のちぎられた控えに判が押すのをながめながら、今度こそ引き落としに切り替えようと考えはするものの、済んでしまえば途端面倒になる。公共料金の支払いだとか免許の更新だとか、世間を渡るための面倒ごとは一切苦手だった。
コンビニで夕食を買いアパートに戻る。ひんやりしてほの暗いエントランスの集合ポストの1か所が、ピザや寿司のチラシで溢れている。自分の部屋番号のプレートがついたポストだが見なかったことにして通り過ぎた。
テーブルにコンビニ袋をのせると、朝飲んだまま置きっぱなしたビール缶が床に転げ落ち、のみ残した液体が小さく床に広がった。だらしない独身30男。その見本のような自分だった。
去年29までいられる社員寮を出て一人暮らしをはじめて、さらに拍車がかかっていることに自覚はあるが一人の生活はたいていのことが「まぁいいか」でまかり通ることも知っていた。
濡れた床をそのままに、コンビニで買ったカレーを口に運ぶ。咀嚼して飲み込んで、これじゃねーんだろうな、と思った。起き抜けに、夕方の風にまじって入り込んできたあのにおい。あのカレーの味は、きっとこんなんじゃないはずだ。
翌日、日曜。車の後部座席に積んだままになっている釣り道具に餌を買い足し、高速を一時間ほど走る。7月中旬、夏本番を迎えた海は真上から照り付ける太陽の光を反射してまぶしく光る。
翔太は海水浴客でにぎわう遊泳エリアから少し離れた海岸へむかった。
熱く柔らかな砂をふみ波打ち際まで歩き、仕掛けを海に投入すると時合いうまく重なったためか、煙草一本吸い終わらないうちに竿が震えた。
釣った魚の口から針を外し、また新しい餌をつけて海になげる。2週間の夜勤でできた夜型の生活リズムを強引に昼へと切り替えるには太陽の下にからだをさらすのが一番だ。
単調な動作を繰り返しているうちに日は傾き、時間とともに空も海もその色を変えていく。翔太は一度竿を置いき、やわらない砂の上に腰を下ろし煙草を取り出す。
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