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インターホンを鳴らし、むかえ入れられた部屋をながめる。
「汚いね」
ダメな30代独身男の部屋カタログがあったら、表紙まではいかなくても見開きページを飾れそうな空間にむけて言った。
空き缶と弁当の容器が机の上や台所に置きっぱなされている。
「お前が来たいって言ったんだろ」
コップも皿も箸も、洗剤もスポンジも何もないキッチンだった。冷蔵庫をあけると中にはビールの缶が数本だけ。
トイレを借りるついでに偵察した洗面所の洗濯機は、スタートボタンに埃がたまり使われた形跡がまったくない。
風呂場にはばりばりになったタオルと化石みたいな石鹸がひとつ転がっていた。
さっきの集合ポストみたいに物が散乱し溢れかえってるわけじゃない。むしろ溢れてるというより空っぽだった。「生活」っていうものがすっぽり抜け落ちている。
聞いたら風呂と洗濯は毎日むかいの銭湯とコインランドリーで済ましているという。
「これでいいんだよな?」
松永が押し入れから出してきたカセットコンロを机に置く。
「ああ、うん…。てかコップも皿もないのにカセットコンロはあるんだ…」
「釣りで使う」
冬の時期に持っていくらしい。寒い夜の堤防で食べる夜食は袋のラーメンじゃないと嫌だって、わがままなやつがいたんだと言った。
カレーと一緒に持ってきた土鍋に、来るとき密封容器の中で水に浸してきた米を入れる。
コンロに乗せ、火加減をつまみで調節する。南をながめ松永が
「鍋で飯炊くやつはじめてみた」とつぶやいた。
「バイトしてた居酒屋で教えてもらった。たまに下のほう焦げるけど」
中火で12分。弱火で5分。携帯で時間を見る。
テレビに流れるニュースではアナウンサーが「連休はどこで過ごす予定ですか?」とキャリーを引く人間を捕まえてはインタビューしていた。
グアムでベリーダンス。ハワイでイルカと。
何もかも笑えてくるほどうらやましくない。
世界中で今の自分ほど浮足立ってる人間なんか、きっといない。
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