思い

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松永が缶ビールを開け、南がタッパに入れて持ってきた寮飯のカニカマと大根とかいわれのマヨサラダと青南蛮の味噌漬けを酒のあてに一杯はじめた。 「松永さんって実家帰らないの?」 お盆は田舎で過ごします、と答えるテレビの中の家族を横目に聞いてみる。 「毎年正月帰ってる」 「実家どこ?」 「北海道」 「そっか、遠いね。家族は?」 知りたいことが山ほどあった。不思議なくらい今日の松永は疑問にちゃんと答えてくれる。 「父親と弟」 言いながら二本目のビールを取りに立ち上がった。タッパのサラダはもう空になっている。 もどってきたとこ「お母さんは?」と聞いた。 「死んでる」 「ーー…え」 「つっても子供のときだけどな」 「そう…なんだ」 死んだ、という言葉のひびきに頭の中で並んでいた聞きたいことが泡みたいに消えた。 火を弱める。 火加減に注意するふりをして沈黙した。 どっかの家の夫婦が喧嘩してる声とか、子供のはしゃぐ声がする。
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