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『夏になれば仕事が落ち着く』
早春の二月。久しぶりに来たあいつからのメールは、次に会えるのは半年後になる、という報告だった。
ぷつ、と。
画面に水滴が落ちてきて空を見上げる。工場裏に植えられた梅の木の枝ごし。薄い雲の流れる青空なのに、ぱらぱら小雨が降り始める。
ーーめずらしいな…
冷たく強い風が吹き寄せて枝が揺れ、高潔な白が陽に輝く。ちいさい割りに力強く備えている、枝の先に咲く白い花。
写真を撮って送ろうと腕を伸ばしたが、その行動が自分らしくなさ過ぎて、やっぱりやめたと手を下ろし、そのまま空だけを見ていた。
息をする度、肺の中に冷たい空気が満ちていく。
青空と雨と、多分まだ咲いたばかりの梅の花。どこかで嫁入りしている狐は幸せなんだろうか?
青空と雨と梅を見て、向日葵を思う。まだ春も来ていないのに夏なんか遠すぎるだろ。
夏になれば仕事が落ち着く、とあいつは言うけれど『待ってる』なんて言ってはやれない。
午後の作業開始の鐘まであと15分。食堂に行った班員達が戻ってくる時間だ。翔大は建屋の外壁に背を預け、ポケットから煙草とライターを出す。先端に火を付ける。
視界の隅、数日前に降った雪が溶けきらないまま土に汚れ残っている。ゆっくりと煙と一緒に白い息を吐き出した。
「松永、ちょっといいか?」
ふいに名前を呼ばれ声のほうをむくと、戸口に課長が立っていて手招きしている。煙草の火を靴の裏で消しかけよると、課長の後ろに翔太達の部署とは違う黒いつなぎの若い男が控えていた。視線が合いちいさく会釈される。
金髪に近い明るい色の髪。右に一つ、左にふたつ開いたピアス。好奇心を隠さない瞳がじっと翔太を見る。
「お前の班、ずっと人足りないから入れてくれって言ってただろ?」
「はい…」
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