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        「うーん・・。どうだろう。あの子の教育担当してた人間が去年異動しちゃってて詳しい話聞けてないんだよね。一応データでこれまでの研修先記録は見てみたけど・・主翼以外の部位に本格的にかかわってるような記録はなかったかな」 翔太の矢継ぎ早の質問に苦し気な顔で答える課長は何度も時計を確認し、一刻もはやくこの場を去りたそうだった。それを無視し攻める口調で畳みかける。 「レインディアの機体とキャピトルの機体じゃ使ってる材料も工具も作業工程もかなり違いますよ。それも踏まえて一から覚えさせろってことっすか?」 「――こ、これでも一応キャピトルの頭部、胴体、主翼、各班めぐって誰か中堅どころまわしてもらえないかって頼んだんだよ。でもダメだ。出せる人間はうちよりもっと余裕のない班にまわさなきゃいけないから難しいってさ。今はどこの班も猫の手だって借りたい状況なんだから仕方ないよ。ま、若いし仕事はすぐに覚えるだろ。な、頼む」 な、じゃない。面倒を見なきゃならない人間が一人増えるってことは、ただでさえぎりぎりの人手が一人、教育係り取られるんだってわかれよそんくらい。言ってやりたいが目の前で拝むように手を擦りあわせる上司に対しこれ以上何も言えなくなってしまった。しぶしぶわかりましたと承諾する。 課長が安堵の表情を浮かべる。戸口に突っ立ったまま待機している新しい人手にむかい「南。こっち来て松永に自己紹介しとけよ」と手招きしするとぱっと顔をあげ翔太の正面まで駆け寄って来た。 最初見たときも感じたが、作り物みたいな顔だと思った。目や鼻や口や耳。ひとつひとつのパーツを誰かが強いこだわりをもって設計し、それがここじゃなくては駄目なのだというように寸分の狂いもなく一番の最適置に収まっている。そんな作品。 緊張しているのか逃げるように泳いだ視線が地面をむく。そのまま考え込むように「えー・・と」と人差し指で鼻の頭を擦るしぐさが顔を洗う猫みたいに落ち着きがない。 大丈夫かよこいつ・・。怪しく思いながら眺めていたら、すっと息を吸い込む微かな音が聞こえ、たわんだ弦を張るようにぴっと顔が上がった。形のいい唇が開かれる。 「レインディアで機種はA28。主翼1班で右羽の組み立てやってました。南吉馬です。来週からここでお世話になります。よろしくお願いします!」
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