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ちゃらそうな見た目の印象からもっと怠そうにしゃべってくるのを想像していたからギャップに裏切られる。冬の空気に凛とひびいた声は高くもなく低くもない、はつらつとした鈴の音みたいだった。 涼し気だった茶色っぽい瞳に、さっきまでは感じなかった我の強そうな自己主張の色が滲んでいる。 「ああ・・」と返したら南が「あの、それと」と、まだつづきがあるみたいだった。射ぬくように挑戦的なまなざしで翔太を見据え南が言う。 「俺、仕事が好きです!―――どんな風に好きかって聞かれたら『ただ言われたことをやるんじゃなくて、自分のやりたいことをやるのが好きです』――あと、それから・・自分の代わりは他にいくらでもいるけど自分にはこの仕事の代わりはないんでがんばります!」 冬の冷たい空気のせいなのか、緊張のせいなのか。勢いよく深々と下げられた頭の両端についた耳が赤い。見下ろしながら、こいつ今なんつった?とひっかかった文言を巻き戻して再生させる。 ――ただ言われたことをやるんじゃなくて、自分のやりたいことをやるのが好きです。 気が滅入る。黙って指示したことだけをやっててくれりゃいい自分とはそりが合わないタイプだ。本当に代わりがいるなら今すぐここに連れて来い言いたくなる。形のいい頭がゆっくり起き上がるのをうんざりと眺めた。 「じゃ実務的なことは全部松永に任せてあるから」、そう言って課長が建屋の中に戻っていき、寒空の下南と二人残される。ふいに南が「あ」と声をあげ、珍しいものでも発見したように「それ!」と翔太の右手の中を指さした。 「あ?」 「そのスマホ。俺のと一緒の機種だなって気づいて。―――あのそれ、普通にシャッター押すだけなのに写真めちゃくちゃ綺麗に撮れるよね?」
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