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エピローグ
「……今日はよく星が鳴るわね」
わたしは藍色の絵の具を片手に呟く。絵の具の匂いは馴染みすぎて今更どうとも思わないけど、こんな時は少し鼻につくように思う。
梯子から飛び降りる。白いトゥーシューズは音も立てない。
きっと誰かがまた来てしまったのだろう。わたしはルーチンワークを始めることに決める。話を聞く。好きな物の話。絵筆を貸す。そういう類のことを繰り返していたら、梯子の上に切符が一枚落ちている。そして彼ら彼女らは、行かなきゃ、と言い出す。
わたしはいつだって、冷たいホームで見送る。
なんどこのおはようとさよならを繰り返しただろう。
ホームの方からは人の気配がした。やはり誰か来たのだろう。りんりん星がうるさいくらいに鳴る。何があったのだろう。こんなに騒がしいことなんて今までなかったのに。
「……レス、」
幻聴だ、とわたしは咄嗟に判断した。手首と足首の星の枷がぱきん、と音を立てて壊れた。わたしは走出す。
わたしは叫ぶ。
「シグナル!」
「シグナレス!」
赤いマフラーを巻いたその少年は、わたしに向かって笑みを浮べる。枷の外れた手足は軽かった。赤いマフラーはランプの火のように翻る。わたしはわたしの冷たい手を伸ばす。シグナルは迷いなくわたしの手を掴んだ。
きっとわたしが描いた星座図は地図になるだろう。わたしとシグナルの、これからの旅路のための。
リンドウと星が、彼らを祝福するように鳴っている。もうこの手は、ずっと離れない。
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