黄昏ゲーマー

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あの頃僕らはゲームしか知らない馬鹿だった。 「A区サイキョォッ!」  最後の一撃が気持ちよく入った所でガッツポーズを取る。  頭上で「十五」という電光表示が僕の連勝記録を称えるように瞬いた。 「いたた、イタイ人だ」  背後で友人が苦笑した。たびたび口癖のように言う「A区最強」という台詞に、いつも同じような反応をされた。自分で言うような事ではないかもしれないが、事実僕は自分の事を「A区最強」だと思っている。なんら問題は無い。 「勝つ度にそれ叫ぶからな」  隣で空いている席に座り、画面を覗き込みながらもう一人の友人が呆れたように言った。 「友人対戦の時は良いけどさ、知らない人とやる時はやめろよ」  上から目線のような忠告にいささかムッとする。 「負ける奴が悪いんだろ。格ゲーは勝った奴が偉いんだよ、グチャグチャ言ってねーで一回闘るか?」 「俺、今日本気でやるわ」  僕の安い挑発に乗った友人が席を立つ。今しがた負かした相手も連コインする様子は無いので、もう向こうには居ないだろう。僕は友人よりかなり強い。負けた時の悔しそうな友人の顔を想像して、思わずニヤける。  ところが、対戦台の向こう側に向かって行った友人が何故かスッ、と台を通過した。 「両替か?」  後ろへ振り向き、背後の友人へ聞いた。が、何故かこいつも表情を一瞬強張らせそそくさとその場を後にする。 「は? なんだよ?」  僕は友人らの行動が意味分からず首を傾げながら、台へ向き直る。そして分かった。  先ほど負かした相手は対戦台にまだ居たのだ。そして今、彼は席を立ちこちらに向かって悠然と歩いて来ていた。  僕は先ほどの浅はかな自分の行為を悔いていた。なぜあんなバカげた事を叫んでしまったのだろう。後逃げ出した友人達を恨めしく思った。  僕がコテンパンに負かした相手はよりにもよって相沢君だったのだ。
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