黄昏ゲーマー

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手押しのガラス戸を開くとカビ臭い空気が鼻につく。年代物の馬鹿でかいクーラーが「ゴウゴウ」鳴っていて、排出された湿った埃が肺に入って咳き込んだ。そんな僕の様子にまるで気づいていないようで、相沢くんは目当ての台へとさくさく進む。 「あ、もう誰か居んな。どかすか」  筐体に五十円玉を投入し、席に座りかけた所で相沢くんが こちらを向いた。 「五十円奢るわ。岸本やってみてよ」  ぶっ、と鼻水が飛び出た。てっきり相沢くんとやると思ってたからだ。  一度だけ、一度だけ僕もカウンタでプレイした事がある。そして洗礼を受けた。こういう小汚いゲーセン特有の”あれ”だ。  ちょうど、その時少し離れた台で”あれ”が起きた。 「ざっけんなっ!」  怒声と共に灰皿が飛ぶ。通称”灰皿ミサイル”だ。随分と嫌らしい勝ち方をされたのだろう。灰皿ミサイルでは飽き足らず、立ち上がった彼は筐体を思い切り殴りつけた。これは”台パン”と呼ばれる。  これが血の気の多い者同士なら”リアルファイト”に発展する訳だが、今回は勝った方がおとなしい奴だったようだ。 確かにあの時僕も随分相手を馬鹿にした戦法を使っていた。挑発ボタンも繰り返した。でも、だからってゲームに負けたからって、こんな事する奴が居るなんて思わないじゃないか。 「やんねーの?」  固まっていた僕を見て相沢くんが首を傾げた。どうしよう、ここで「やらない」と言えば間違いなく不良の彼とは二度と関わる事は無いだろう。こんな怖い場所にだって来たりしない。でも、何故だろう。彼とはまたゲームをしたい。今、終わらせたくない。  僕の微妙な気持ちを汲んだのか汲んでないのか、彼は意味ありげに笑った。 「A区最強、なんだろ?」 「まあね」  何かが心ではじけ、僕は座った。そして対戦相手を見て安心する。 「こいつ、弱いよ」  僕の自信ありげな言葉に相沢くんが眉をひそめる。 「強キャラじゃん」 「CPU戦で強キャラのハメとか。大方ネットで見たレシピ数通り覚えただけっしょ。根本ができないんだよ、この手合いは」  事実僕は二本先取で勝ってみせた。相手が連コインしないのを見て相沢くんが向こうの対戦台へと回る。 「じゃーさっきの恨み晴らすかな」  僕は相沢くんにも二本先取した。
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