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相沢くんは、語気を強めてそう答えたのだ。たじろいだ女子が何か弁明していたと思うけど、僕は聞き取れなかった。眼に涙が溜まっていくのを感じて、僕は”胸が詰まる”という感覚をはじめて知った。
抑えようと思っても涙がこぼれはじめ、僕は慌てて教科書も取らず、校舎の裏へと駆けた。
人の気の全く無い日陰の花壇という場所で僕はうずくまった。僕は何故相沢くんが何を言っても平気だ、なんて思ってたんだろう。それは僕が彼に対して「そういう人だろう」と評価していたからだ。なんて事は無い、僕が相沢くんの事を信用していなかっただけだ。
「ぐぅう……うぐぅ……」
なるべう声を殺して泣いてたらガチャ、とドアが開いた。やばい、と隠れようとしたけど遅かった。出てきた人物を見てよりやばい、と思った。
「うわ、どーしたの。お前」
相沢くんだった。
「別に……なんでもない」
眼も鼻も真っ赤にしてなんでもない事なんて無いのだが、相沢くんは「ふーん」とだけ答え、隣に座った。
チリ紙で鼻をかむ僕のとなりで、彼はタバコを取り出した。何も聞かず、何も言わずただタバコに一本火をつけた。様になっているその姿から彼の喫煙歴がそれなりに長いのが分かった。
「お前……タバコ吸うのな」
今までタバコを吸っている姿を見た事がなかった。もしかしたら僕には隠していたのかもしれない。
「吸う?」
器用にも箱からタバコを一本だけピョン、と飛び出させた。
「いや、僕はいいや」
「あそ」
彼はタバコを胸ポケットに戻した。そのまま僕が泣き止むまで彼は黙って隣でタバコ吸っていた。
「ごめん、帰ろうか」
僕がそう言って立ち上がるまで会話など全く無かった。でもそれで良かった。僕は今何も話したくなかったし、相沢くんも聞きたい事など無かったのだろう。ただ、隣に居てくれるのは嬉しかった。沈黙が気まずくない関係、てのもあるんだなと、その時生まれて初めて知った。
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