1 入団式

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緊張を強いられたまま王を待っていた少年達は、二人の団長の登場という、さらなる緊張の原因により、完全に緊張の糸が切れてしまう者がちらほら。話でもして、気を紛らわせないと身が持たない。 「ぼく、ここでやっていけるのかな…」 「しっ!今、お二人がこっち見たぞ」 バーレニア国の騎士団長オーリー=フェンヌはちらりと少年達を一瞥する。 オーリーは太い眉に髭面の、いかにもな無骨な風貌で、その2メートルもありそうな巨漢からは想像できないほど、素早い剣さばきで有名な叩き上げの騎士である。平民出身だが、貴族が就任するものと長年の慣習から決まっていた騎士団長の地位を実力で掴んだ平民のヒーローでもある。現王が身分よりも実力を重視する賢王であることも大きかったが。もう40代半ばだが、その筋肉隆々の肉体は衰えを知らず、有事の際には誰よりも前に出て現場を仕切っている。 そして、オーリーの隣で殊更小柄に見えてしまう巻き毛の青年キルカも、その感情の読めない表情で何気なく少年達に目をやった。 キルカ=マーシェル。その存在感ではオーリーに負けずとも劣らない。偏屈揃いで有名な魔法兵団を束ねる長は、もちろん食えない人物で有名であった。 マーシェル家は代々大臣を輩出している名門貴族である。キルカはマーシェル家の三男にあたり、彼以外の兄弟は皆、国の政治を動かす要職に就いている。彼は貴族らしからぬ「変わり者」だった。キルカ自身、幼い頃より政治の道に進むように両親に望まれ、徹底的な英才教育を受けた。他の兄弟達を凌駕する頭脳明晰ぶりを発揮する三男に、両親は最も期待をかけていた。この子は一族をより進化させる人物になると。 だが、16歳の成人式の日、彼はこう言った。 「今まで政治について深く勉強し、私は確信しました。これに全く興味がないことに。興味のないことを追求していく人生なんて生きている意味がない」 「私は魔術師になりますので。お父様、お母様。今までありがとうございました。では」 と軽く頭を下げて言い残し家を出てしまった。両親の嘆きは尋常ではなく、何度も軌道修正をしようと試みたそうだが、本人はさっさと寮住みの魔術師見習いになってしまった。それからは持ち前の能力の高さでめきめきと実力をつけ、順調に正魔術師になってからは『魔物ハンター』の異名を付けられるほど活躍。他を圧倒し30歳を越える前に魔法兵団の長に就任した。
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