2章

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「ああ、まったく残念な結果だったんだよ。愛し合う二人の男女が誤解した結果、破局を迎えるなんてね」 アンジェロは大げさにそう叫んだ。電話口で声を荒げたために僕の耳はわんわんと痛む。どうして破局を迎えたのか、僕に尋ねてほしいのだということはすぐに分かった。しかし、アンジェロはどうしてまた僕との電話をなるべく引き延ばそうとするのだろうか。 アンジェロがツッコミ待ちで押し黙り、僕がまんまとアンジェロの思い通りになるのが癪で黙っている間、二人の間に小さな沈黙が生まれた。そして僕は瞬間的に悟った。 こいつ、さてはハワイでイタリア語が全然通じないからホームシックにかかってるな。 知り合いもいない、言葉も通じない異国に一人ぼっちでいたので、きっと話し相手に飢えていたのだ。ならどうしてハワイなんてバカンス先に選んだというのか。だいたいハワイなんて新婚旅行とか家族旅行とかで行くところだぞ。 僕はアンジェロに心の中でそう思いつつも、それをおくびにも出さずに会話を続けようと考えた。そうと知れば、こちらも相手の弱みを握ったも同然だ。僕の心にはすこしばかり余裕が生じた。「いったいどうして真実の真心で通じ合った二人が破局を迎えなくてはならなかったんだい?」 アンジェロの調子に合わせて大げさに尋ねると、アンジェロは「まったく哀しい誤解だったのさ」と言って続けた。 「いつものようにピッツェリアでピッツァを食べたあと、麗しいご婦人が二人その店に入ってきたのさ。僕は雷に撃たれたようになった。ごく控えめに言っても彼女たちは天使そのものだった。麗しき御婦人が二人レストランにいるのに声をかけないなんて、失礼にあたる。そうだろう?」 何が失礼に当たるのかさっぱりわからなかったが、さっさと話を切り上げてほしかったので僕は黙っていた。アンジェロは上機嫌で続けた。
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