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「再び言おうと思う。これは会社存続の危機であると」
鶴亀商事渉外部海外渉外三課の面々はゴウタニ部長の真剣な表情を見ながら頷いた。
眠りに入ろうとしていたドンくんの目は充血し、鏡を使わずに結んだネクタイの結び目は巨大なゾウガメの甲羅を思わせた。英国王族の名前のついた結び方をしようとして失敗したに違いない。
ゴウタニ部長のデスクには白いレースのカーテンが無造作に置かれ、その切れ端をチョウノさんが掴んでいる。彼女の目はドンくんに負けないくらい真っ赤に腫れ上がっている。
時刻は深夜一時を回っていた。
この時間に渉外三課の課員全員を集めて檄を飛ばしたのは、買ったばかりの高性能エアマットレスで快適な眠りの世界に入ろうとするドンくんに対する嫌がらせでもなければ、取引先に電話をかけるふりをして時報ダイヤルに電話しつつタダノ課長のフェイスブックを見ていた僕のサボりがバレたわけでもない。
事件が起きたのである。
「もう耐えられません」と突然ゴウタニ部長に直訴したのがチョウノさんだった。チョウノさんの名誉のために言っておきたいのだけれど、彼女が癇癪を起こしたのは僕が知る限り初めてのことだ。
驚きのあまり僕はタダノ課長のタイムラインにいいねを押してしまったし(飼っていたうさぎがピクニックの最中に脱走した投稿である。全然「いいね」ではない)、ドンくんは慌てて飛び起きて机の角に頭をぶつけていた。
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