1章

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世界のことをゴウタニ部長がおっしゃったのはわけがある。○○自動車は宇宙ステーションの打ち上げ計画に参加すると発表したばかりだ。完成した宇宙ステーションにはガンの新薬開発研究やら、世界の食糧難を解決させる画期的な穀物の研究やら、そういうものに利用されるのだという。 これはまさに、世界を救う仕事なのだ。 ゴウタニ部長の言葉を受けて、チョウノさんは自分のデスクの上から書類を一枚取り出した。 「CK305、個数は10個」 「我々に関係のある積荷はそれだけかね?」 ゴウタニ部長が尋ねると、チョウノさんは重々しくうなづいた。 「諸君らには誠に申し訳ないが、これは我ら渉外三課の腕のみせどころである。世界を救うことができるか、それとも世界が崩壊するかは我々次第だ」 つまり、今夜も家には帰れないということだ。ドンくんがちいさな声で「OH」とつぶやくのが聞こえてきた。 「しかし、CK305。よりによって」と僕はチョウノさんの言葉に茫然として呟いた。その言葉の意味を瞬時に理解したチョウノさんが僕に目配せをしてきた。 「国内代理店でこの商品を扱っているのは私の担当の代理店だけです。しかも在庫が乏しい。ものとしては小さく軽いので飛行機便で簡単に飛ばせるのがせめてもの救いですが」 チョウノさんが言うと、「数が多いな」とゴウタニ部長はうなった。 「1個確保するだけでも大変なのに、10個なんてとても確保できません」 僕が泣き言を言うと、ゴウタニ部長はくっくっと押し殺したように笑いだした。 「面白くなってきたじゃねえか」 僕とチョウノさんは部長のスイッチが入ったのだと悟った。 経験の浅いドンくんは、このおじさん頭大丈夫だろうか、という顔をしている。無理もないことだ。あとで言い含めておこう。 ゴウタニ部長は困難が大きければ大きいほど燃えるのだ。何しろ、彼はプロジェクトXの大ファンだ。話数を言えばそれが何の回だったかピタリと当てることができる。仮眠室のテレビにはプロジェクトXのDVDボックスが置いてあるが、あれはすべてゴウタニ部長の私物なのだそうだ。 「とにかく国内の代理店をすべて当たれ。ヨーロッパやアジアもだ。手当たり次第に電話をかけろ。世界を救うんだ」
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