1章

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僕は気が遠くなるのを感じた。一ヶ月近くもバカンスに出ているのか、あの男は。こっちは今月まだ一日しか休んでいないというのに。アンジェロに対する怒りでクラクラしながらも、僕は頭をフル回転させた。どうにかイタリアの代理店からアメリカに向けて飛行機便で飛ばしてもらうしかない。そうすれば計算上は○○自動車アメリカ支社への納入はギリギリ間に合うはずだ。 「誰か他の人に引き継ぎはしていないのですか?」 「いや、引き継ぎはしていませんね。突然だったので」 「突然?」 「金曜の夜に電話があったんですよ。月曜から一ヶ月ほどバカンスに出かけるって。かわいそうに、婚約者と別れてしまってすっかりふさぎ込んでしまった様子でした」 婚約者と別れたくらいで会社に来なくなるなんて、日本人である僕にはとても考えられないことだ。たとえ親が死んでも次の日には出社するのがジャパニーズビジネスマンの生き様である。 「なんとかアンジェロと連絡を取る方法はありませんか?」 電話口のスタッフは少しだけそのことについて考えたようだった。その一瞬の逡巡が、何よりの証拠だ。スタッフはアンジェロの連絡先を知っている。「残念ですけどね、バカンス中の連絡先は知らないんですよ」 迷った挙句に彼はそうやって答えた。僕はデスクの上の時計を見て瞬間的にイタリアの現地時間を計算した。あと20分後にお昼休憩になるはずだ。イタリア代理店のスタッフは近くピッツェリアでたっぷり二時間はピザとワインを愉しむ。その間の電話番は地元の女子大生バイトになる。アンジェロの連絡先を聞き出すなら彼女からだろう。 そうですか、と僕は残念そうな様子を装って電話を切った。
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