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勇士は、突然の発覚に弁解する余裕もなく只々謝るだけだった。しかしこの浮気現場の写真もワンピース姿の長い髪をした女性の後ろ姿しか写っていなかった。昨日の勇士と同じ台本を読むように、亜利沙は不倫相手の素性を問い詰めた。しかし勇士は、ただひたすら口ごもり土下座を繰り返すだけだった。そして数週間後、2人は話し合いの末、離婚する決断を下した。
それがきっかけで2人は3年に及んだ夫婦生活の蟠りがスーッと消えたように晴れやかになった。
亜利沙は1度互いの浮気相手を呼んで会食をし、恨み辛み無しに気楽に話し合う機会を設けようと勇士に持ちかけた。勇士は少々戸惑ったが、やむかたなしと要求を受け入れた。
互いの不倫相手がレストランへ来る予定の時間が来た。
「お疲れ様です」
約5メートルほどの距離から低音だが通りの良い声で2人に挨拶する男の姿があった。
同じタイミングで勇士と亜利沙は男の方を向いた。勇士は驚いた表情で男の名前を呼んだ。
「勇一!」
その男は、勇士と全く同じ姿形をした男であった。一卵性の双子の兄、勇一である。
「亜利沙、お前まさか俺の兄貴と?」
亜利沙は、大きくうなづいた。
勇士は、戸惑った。
テーブルへ辿り着いた勇一を亜利沙が隣の席へ誘導する。
「この人が私の相手、そしてあなたの兄、勇一さんよ」
亜利沙が浮気相手を紹介した。
勇士は、しばらく呆気に取られていた。
しかし、そんな呆然としているのも束の間、テーブルの方へグレーのニットのワンピースに深い黒のハットを被りマスクをした人物がやって来た。
「お疲れ様です」
勇士は少し気まずげに亜利沙の表情をチラと見た。
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