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「あの、すみません。そんなに気になさるとは思わなくて。本当に、申し訳ありません」
男性は、私が彼の爆笑に傷ついたと思ったのだろう。
さすがに笑いを納めて、しゅんとした感じで謝ってくる。
でも、親友は違う。
昔からのつきあいで、その程度で私が傷つくほどやわではない、と知っている。
「ちょっと、どうしたのよ。この人、困ってるじゃない」
「……こ……だ」
「え? 何?」
「この……なの……」
さっきまでの私が嘘のように、消えそうな、囁くような声。
困惑している男性と、いぶかしむ親友。
そんな親友の耳に、そっと囁く。
「この人なの……地下鉄の……人」
地下鉄という声だけが届いたのか、男性は少しびっくりした顔をしたが、すぐににっこりと笑ってくれた。
「あれ、ご存じでしたか。地下鉄の職員なんですよ。どこかで逢ってましたか?」
親友は口の中で「地下鉄……」と呟いた後、ぱっと目を見開いて、私を振り返った。
何も言わないけど、その眼が「この人なのね」と言っていたので、私はこっくりと頷いた。
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