エピローグ

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 気が付くと、見知らぬ場所だった。部屋には自分が寝ていた布団が一つだけ、家具類は一切無い、質素な様相だ。壁は打ちっぱなしのコンクリートという簡易なデザインで、この部屋には無が支配していた。  なぜ、こんなところにいるのだろう。と、記憶を辿ってみる。 「ふーん。それで?」 「そいつがさあ、その事件があった日以来家に引き籠て出てこないってわけ」  俺は胡乱な目つきで友人の各務裕一を見る。彼は好奇心旺盛で、興奮しながら話している。話の内容はこうだった。  裕一の友人であるKが帰り道何者かに誘拐されて、目が覚めると見知らぬ施設にいた。同じ境遇の人が数人おり、一時は打ち解けて安心したそうだ。建物を探索したが、外へ出る出口は無く、完全に閉鎖された空間だった。長時間放置されていたが、食料が完備されていたため、それを食べて空腹を凌いだそうだ。やがて、人の数が少なくなっていることに気が付いた。何かがおかしいと思い、調理室にあった包丁を護身用として携帯することにした。やがて、釘が無数に付いたバットを持った男が現れた。バットは血で真っ赤に染まっていた。どうせここで逃げても逃げ場は無いと分かっていた。殺されるくらいなら、と、男の首にナイフを突き刺した。それが、Kが見た施設内での最後の記憶であるらしい。  そんな馬鹿で荒唐無稽な話はあるわけがない。この平和な日本では映画かゲーム、もしくは夢だったというオチが関の山だろう。聞き流そう。  終始、彼の語る妄想を聞くふりをして、そんなことを考えていた。  学校からの帰り道、友人と別れ、近所のコンビニでジャンプを立ち読みした。ふいと、裕一から聞いた話、もしかして小説にしたら面白いかもと思い、にやにやと笑った。コンビニの店員が顔を顰めてこちらを見ていた。  それ以来の記憶が無い。もしや、俺は誘拐されたのか?酷い頭痛がする。裕一の友人であるKの話が脳裏をよぎる。  立ち上がったとき、一瞬貧血が起きた。一旦深呼吸をして落ち着いてから、しっかりとした足取りで扉に向かい、ドアノブを回した。
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