松戸 博士(まつど ひろし)の場合

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「なぁ彩子、ゾンビってなんだ?」 「嫌ですわ兄さま。ゾンビと言ったらジョージ・A・ロメロのあのゾンビですわ。生きる死体ですわ」 「あー、そういう事ではなくてだな……」  妹も私と一緒に古い映画を大量に見ているせいで、変な知識は多い。  それにしても、ゾンビの研究なんてしたことは無いはずだが……。  何だったかなと頭を悩ませる私に向かって、妹は「はた」と言いながら左手のひらに右拳を乗せ、うんうんと頷いた。 「情報の提供が遅れました。今、この鹿翅島は、人類史上最初のゾンビパンデミックに陥っているのですわ」  ポケットから取り出したスマホにニュースサイトや動画サイトの情報がまとめて表示される。  そこでは、今日の早朝から始まったゾンビによる全島のパニックの様子が、刻々と更新されていた。 「ちなみに、ここ、松戸家にもゾンビが居る模様です。父さまと母さまは地下室にお逃げになったご様子ですが、さきほど予備電源が切れたため、地下室は真っ暗でパニック状態のようですわ」 「……彩子、そういう情報はもっと早めに頼む」 「はい、兄さま。以後気を付けます」 「よろしい」  私は白衣を翻し、右手にネイルガン、左手にポリカーボネイト製のライオットシールド(機動隊とかが持っているアレ)を装備した。  妹も、白衣の上にランドセルを背負い、もう両手に小さめのネイルガンを持っている。  何も言わずとも私たちはお互いの気持ちを分かっていた。  せん滅作戦、開始だ。 「行くぞ! こんなこともあろうかと、私は今まで研究を続けてきたのだ! 正義のマッドサイエンティスト、松戸博士の研究成果を見せてやろう!」 「兄さま。素敵ですわ」 「当然だ!」  研究室を出ると、どこから侵入したのか、広い庭にはぽつぽつとゾンビの姿が見えた。  程よくバラけている。練習にはもってこいだ。
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