松戸 博士(まつど ひろし)の場合

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松戸 博士(まつど ひろし)の場合

 金曜日の朝に目覚めると昼だった。 「おかしいな。私は金曜の朝に目覚めたはずなのだが……」  昼なお暗い研究室(と言う名の離れのプレハブ小屋)。  私はやぶにらみの三白眼に、銀縁のメガネを装着する。  体を起こした私に気づいた12歳の少女が、てててっと私に駆け寄った。 「兄さま兄さま、偉大なるマッドサイエンティストが、そんな些細なことを気にしてはいけませんわ」 「いや、彩子(さいこ)よ、これはもしかするとタイムリープに関する人類の『気づき』の第一歩かもしれない。科学者たるもの、そう最初からすべてを決めつけてはいけないのだよ」  妹、松戸彩子は「おおー!」と目を輝かせ、尊敬の眼差しで私を見る。  私は前髪をふわっと払い、メガネを中指でクイッとなおして「フッ」と不敵に笑った。 「兄さま、今日は何をしますか? タイムマシーンの研究を続けますか? レーザーガンの研究にしますか? それとも……ゾンビ?」 「……そうだな……」  壁に掛けてある白衣をまとい、私はどうしようかと考える。  中学校の入学式の翌日から、学校にはもう一年半以上行っていない。  それにつられる様に学校を休みがちになった妹と、この研究室(プレハブ)に籠るようになって一年。  様々な研究は、そこそこの成果を上げていた。  タイムマシーンの研究。  まずは過去と未来を知ることが大事だ。  未来を描いたアニメや過去の名作を見る。  日々情報は更新され続けている。これは今後も継続的な研究が必要だ。  レーザーガンの研究。  レーザーの前に、まず実体弾を打ち出す銃の構造から勉強すべきだ。  研究のために通販サイト「ジャングルドットコム」から取り寄せたガス式くぎ打ち機「ネイルガン」は、その研究の第一歩と言えよう。  1マガジンで100本の釘がセットされ、20メートル以上の飛距離を誇る本格派だ。  今はこの銃での射撃訓練が主な研究内容だった。  そして、ゾンビ。 「……ゾンビ?」  白衣のポケットに手を突っ込んで、私は首をひねる。  私の姿を真似して、ポケットに手を突っ込んだ妹が、同じように首をひねって私を見上げた。
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