155人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
気づくと美穂は、三畳ほどの板の間に座りこんでいた。
(……生きてるんだ、あたし)
胸に落ちたのは、そんな思いだった。
なぜ、こんな所に? という疑問は浮かばなかった。
蒼白い光のもとへと目を向ければ、大きな満月が格子戸ごしに見える。
夜だった。
静寂の広がる、冷えた空気の匂いだけがした。
「……あら。
ずいぶんとまぁ、ちんちくりんな子ね」
のんきな女性の口調。
けれども、美穂の耳に響いたのは、女の声音ではなかった。
月明かりを背にしたのは、ゆるやかに波打つ髪をした、二十代後半くらいの男。
あきらかに男と判る背格好だが、長い髪を結う飾り紐も、その身にまとった着物も、女性を思わせるものだ。
「口、利けないワケじゃないわよね?」
格子戸の向こう側から、男が美穂の顔をのぞきこんでくる。
「あんた、なに」
美穂の口をついてでたのは、拒絶のそれだった。
得体の知れない人間と関わりたくはないという、気持ちの表れ。
「アタシ? アタシは……んーアンタ次第で生きるオトコよ」
言って、いたずらっぽく片目をつぶる。
まるで謎かけのような返答に、美穂はそっぽを向いた。
最初のコメントを投稿しよう!