*はじまりの夜

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気づくと美穂は、三畳ほどの板の間に座りこんでいた。 (……生きてるんだ、あたし) 胸に落ちたのは、そんな思いだった。 なぜ、こんな所に? という疑問は浮かばなかった。 蒼白い光のもとへと目を向ければ、大きな満月が格子戸ごしに見える。 夜だった。 静寂の広がる、冷えた空気の匂いだけがした。 「……あら。 ずいぶんとまぁ、ちんちくりんな子ね」 のんきな女性の口調。 けれども、美穂の耳に響いたのは、女の声音ではなかった。 月明かりを背にしたのは、ゆるやかに波打つ髪をした、二十代後半くらいの男。 あきらかに男と判る背格好だが、長い髪を結う飾り(ひも)も、その身にまとった着物も、女性を思わせるものだ。 「口、利けないワケじゃないわよね?」 格子戸の向こう側から、男が美穂の顔をのぞきこんでくる。 「あんた、なに」 美穂の口をついてでたのは、拒絶のそれだった。 得体の知れない人間と関わりたくはないという、気持ちの表れ。 「アタシ? アタシは……んーアンタ次第で生きるオトコ(・・・・・・・・・・・・)よ」 言って、いたずらっぽく片目をつぶる。 まるで謎かけのような返答に、美穂はそっぽを向いた。
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