壱:オトコの正体

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「め、滅相もございやせん! あっしはただ、セキ様に申しつかって、美穂様のご様子を──」 美穂の剣呑な目つきに気づいたのか、猿助はそこであわてたように口をつぐむ。 しばしの沈黙ののち、カリカリと後頭部をかきながら、おしゃべりなサルはふたたび話しだす。 「その……お帰りになりたいのですかい? 美穂様が、居られた世界に」 ……独りごとを聞かれていたのだ。 気まずさから、美穂は口をとがらせる。 「さあ? あたしにとっては、どっちも一緒だよ。 ……どこにも居場所なんてないんだから」 投げやりな言い方に、対応に困ったように猿助は押し黙ってしまった。 何を言っても美穂の機嫌を損ねると察したのだろう。 (人間より動物のほうが、そういうトコ敏感だよね) ふと、学校のなかで浮いた存在だった自身が、思いだされた。        * 「ねぇ、豊田(とよた)さん」 机に突っ伏して寝ていた美穂は、何度目かの呼びかけに顔を上げた。 休み時間。 偏差値と通うのに便利という理由で選んだ女子高は、家庭が比較的裕福で、大人しい子たちが多かった。
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