壱:オトコの正体

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美穂の家の事情は、クラスメイトの一部は知っているだろう。 だが、知らない生徒を含め、改めて美穂の口から出た『身の上話』に、教室内がふたたび憶測まじりにざわつき始めた。 援助交際、万引き。叔母夫婦からの身体的虐待、などなど。 女子高生の想像力は豊かで果てがない。 美穂は、それらのうわさ話を否定することもなく、残りわずかな休み時間をまた眠りに費やそうとした。 そんな美穂に、声をかけてきたクラスメイトが申し訳なさそうに言った。 「えっと……なんだかゴメンね、豊田さん。わたし、なんにも知らなくて……」 さらし者にされたのは、自分のほうなのに。 目の前の少女のほうが泣きそうな顔をしていたことに、美穂はたまらなく罪悪感を覚えたのだった……。        * 岩場に腰かけた美穂の隣で、しょぼくれたように肩を落としている、赤い法被を着たニホンザル。 「あのさ」 美穂は急に居心地が悪くなり、口を開く。 「ここの動物って、みんなあんたみたいに話せるの?」 とたん、猿助は嬉しそうに、つぶらな瞳を輝かせた。 「や、話せるモノも話せないモノもおり、色々でござんす、ハイ」 「ふーん」
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