弐:ケガレある乙女

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“神籍”に入ると外見は変わらず、また、病気になりにくく怪我をしても治りが早い。 つまり、不死身の肉体になる訳ではなく、条件がそろえば病気にもなるし、大怪我もするということだ。 だからセキコは彼の『力』で美穂の濡れた髪を乾かし、風邪などひかぬようにしてくれたらしい。 (あ、そういえば) 裸足で屋敷を飛び出した際に負ったすり傷も、当日の入浴時には痛みをまったく感じなかった。 傷自体は深くなかったとはいえ、まるで何もなかったような状態に戻っていたのは、いくらなんでも治りが早すぎる。 それもこれも──美穂が“神籍”に入ったから、なのだろう。 (それは……分かったけど……!) 美穂の身のうちに、理由の解らない怒りがわき上がる。 「まぎらわしい真似すんな、馬鹿オカマっ!」 怒鳴りつけ、美穂は憤然と寝床に戻り、布団を被った。 「──お休み、美穂」 ややしばらくその場にいたらしいセキコから、障子ごしにかけられた、つややかな声。 優しい響きで発せられた、自分の名前。 (……っ、馬鹿みたい……!) セキコが自分に情欲を抱くはずなどない。 彼は、あの口調と装いが示す通り、男色家なのだ。
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