弐:ケガレある乙女

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「アンタに、この世界で嫌な思いをして、帰って欲しくなかったから。 できれば、良い想い出だけを残して、帰って欲しいからよ」 やわらかく、つつみこむような眼差し。 自分に向けられた善意の言葉に、美穂はいたたまれなくなった。 「美穂?」 息が苦しい。胸が痛い。 泣きたくもないのに、泣きそうな気分になる。 (なんだコレ……!) 自分が抱える正体不明の感情に、美穂はまた、いら立ちを覚えた。 「気分でも悪いの?」 セキコの心配そうな呼びかけも問いかけも、いまはただ、わずらわしい。 様子を窺う鳶色の瞳から顔をそむけ、美穂は立ち上がった。 「……外の空気吸ってくる」 「そう? じゃあ猿助に──」 「いらない。このあいだ行った沢の所までだから。あんたの領域内なんでしょ?」 「……分かったわ」 美穂の(かたく)なな態度に、何かを言いかけたセキコは、それを了承に変えたようだった。 言い争いになると踏んで、やめたのだろう。……美穂に、嫌な思いをさせないために。 遠慮を感じさせる態度が、セキコが美穂との間にとった距離であることに気づく。 美穂は、望んだはずのその『距離』に傷ついている自分を振り切るように、屋敷の外へと出た。
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