弐:ケガレある乙女

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ふいに美穂は、立ち止まって後ろを振り返った。 そよ風に揺れる木々。 青い空に浮かぶ、わた雲。 小鳥のさえずりと、蝉時雨(せみしぐれ)。 草いきれが、鼻をつく。 「……っ」 名前を呼ぼうとして、のどを抑える。 声が出ない。 自分は、彼の真名(なまえ)を知っているのに。 「なんだよ、肝心な時に、呼べないなんてっ……」 嘆くことはできるのに、口にしたい彼の名は、のどの奥でかき消される。 ──美穂のなかで生まれかけた想いと、同じように。
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