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《一》
ふらふらと歩いていたら、迷子になった。
(この歳で迷子とか、ないだろ)
右を見ても左を見ても、草と木しかない。
小石の山は“結界”を表していて、そこを越えるとセキコの領域の外になると聞かされていた。
(でも、そんな小石の山なんて、見てないし)
見逃した可能性は否めないが、それでもまだ、領域外とは限らない。
歩いていれば来た道にたどり着くだろうと、安易に考えていたのは最初のうち。
やがて陽が傾き始めると、美穂の胸中は穏やかではなくなった。
「さ、猿助、いない……?」
物は試しと声をかけてみたが、反応がない。
(付いて来てないの? あのサル、使えないんだけど!)
自分で拒んでおきながら、美穂は八つ当たりぎみに内心で文句をいう。
昨日、セキコから聞かされた話を思いだした。
「“結界”の向こう側には行かないようにね。
アンタに害を為す『物ノ怪』がいないとも限らないから」
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