参:サダメられし出逢い

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毛先が黒い金茶色の獣の耳が、頭にある──物ノ怪だ。 「どうした? 驚いて声も出ないのか?」 からかう口調と共に、美穂の(おとがい)に伸びる手は、人のもの。 冷たい感触にか、これから為されることにか。美穂の身体が、大きく震えた。 「そうおびえることもなかろうよ。 先程まで我を助けようと必死になっていたのはお前だろうに」 くつくつと、のどを鳴らす姿は、捕食するモノのそれ。 かがみこみ、美穂に視線を合わせると、金茶色の瞳に愉悦を浮かべる。 「ただの小娘に見えたが、どうやらそうではないらしい。さて、どういただこうか」 のどにすべり落ちた指先が、もてあそぶようになで伝う。 「とりあえず、我がモノとして──」 近づいた唇が、何かを察したように美穂から離れるのとほぼ同時。 風圧が美穂の鼻先を通り抜け、鈍い音が立つ。 磨かれた刃のように、傍らの幹に突き刺さっているのは、開かれた檜扇(ひおうぎ)。 「アタシの“花嫁(もの)”に、気安く触ってんじゃないわよ」 つややかな声音が怒気をはらむのを、美穂は初めて耳にした──。
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