参:サダメられし出逢い

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      《二》 薄暗い森のなか、そこだけ火が灯ったように存在を誇示する、赤き“神獣”の“化身”。 人の身となり現世(うつしよ)に顕れたるは、己が“花嫁”を得るため。 言語を操り、人心を推し量れるのも、すべてそのためなのだ。 「……お前のモノだと?」 (あやかし)が、面白そうに笑った。 『小さな花』を見下ろし、ゆったりとした動作で腕を組む。 「見たところ生娘のようだが。 おおかた、お前のモノとなるのが嫌で、逃げ出してきたのではないのか? ならば、我のモノとしても問題あるまい?」 野花を手折(たお)るように、感慨もなく。 ()いたら打ち棄てるだろうことも、容易に想像がつくほどの、いっときだけの執着。 ──我慢が、ならなかった。 「……っ、は……!」 「簡単に扱っていいものかどうかの区別もつかない、阿呆が! 妖狐の分際で“神獣(かみ)”の女に手を出すとはな!」 一撃で仕留めなかったのは、罪深さを魂に刻むため。 ぎりり、と、手中に収めた命を締め付ける。 「死をもって償え!」 もがき、あらがう妖の姿には、自らを止める力などない。 ましてや、同情を誘う要素など皆無だ。
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