参:サダメられし出逢い

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「……だ、だめ……」 おびえきった、可愛いらしくもか細い声。 震えながらすそを引いてくる手指は、仔猫のように小さい。 「あんたは、そういうキャラじゃない、よ……」 見上げてくる瞳に浮かぶ、切実な想い。 一方的に手を下すことをよしとしない心根。 「殺しちゃ、だめ」 ──この(こころ)を支配し、束縛する、ただひとつの存在。 めぐり逢えた奇跡に感謝して、側に留め置きたい衝動を何度こらえたことか。 それでも、彼女が望むなら彼女が『在りたい』と思う世界へ送り出すのが、己の存在意義。 荒く憤る感情をおさえこんで、息を吐く。 「……アンタが、望むなら」 それを叶えるのが、“神獣(じぶん)”なのだ──。        * (……こわかった……) 手負いのキツネだと思ったのが妖狐という物ノ怪で、さらに襲われかけたことが、ではない。 「大丈夫?」 自分をのぞきこむ女装いと女の口調で話す『男オンナ』の本性を見たことが、だ。 “契りの儀”で美穂の目の前に現れた、赤き“神獣”。 体毛は古くから毛皮とされ高値がつくほどの美しい模様。 だが、肉食草食問わず己がもつ牙と爪とで一撃必殺で仕留める、ネコ科の獰猛(どうもう)な獣でもある。 (虎、なんだ)
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